あいそぽっど

ワラダンの観察や飼育についての備忘録

P. scaber "Calico"とは...【ワラジムシ】

P. scaber "Calico"について色々調べてみたところ分かったことと、逆にわからなくなったことが多数あったので一旦ここにまとめてみることにする。

 
"Calico"とは何か。

Calicoとは英語で三毛猫を指すcalico catからきている。

確かに、三毛猫のような模様をしている気がする。していない気もする。

自分は全く三毛猫のようには見えないが。

 

しかし、Calicoと呼ばれる理由は模様がそう見えるからというだけではない。

というのも、この模様はメスにしか発現しない。

知ってる通り、三毛猫もほとんどがメスであり、オスが生まれてくることはほぼない。

このような遺伝の特徴から「まるで三毛猫のようだ」ということでCalicoと呼ばれている。

しかし、三毛猫にする遺伝子(正確には毛を茶色にする遺伝子)は性染色体にあるため、伴性遺伝を行うのに対して、P. scaber "Calico"の、いわゆる「Calico遺伝子」は常染色体上にあり、メスのみが発現する限定形質である。

Genetics of Pigmentation in Porcellio scaber Latreille, 1804 (Isopoda, Oniscidea)

 

海外ではよくCalicoに伴性遺伝という意味を持つsex-linkedという言葉を使って説明しているが、正しくは限定形質という意味を持つsex-limitedを使うのが正しい書き方かな?

 

どれがノーマルのCalico?

googleでCalicoの画像を検索すればわかると思うが、Porcellio scaber "Calico"とされる模様がどうやら複数あるようだ。

現在、国内でこの模様のワラジムシたちがCalicoと呼ばれることはないのでこれから話すことは海外の話になるが、このCalico内の通称がぐちゃぐちゃになっていてどれがどれを指すのか分からなくなっている。

基色が違う2匹のCalicoだが、どちらもCalicoとして売られていたり、紹介されていたりする。

先程貼ってあったこの赤いタイプのものは"Red calico"として販売または紹介されていると思いきや、これをただのCalicoとして販売・紹介しているものもある。

とはいえ、どれを見てもこのタイプの模様はメスしか発現しないようなのでCalicoであることには変わりはなさそう。

 

もしかしたら基色は関係なくこのような模様をしているものはCalicoと呼ばれ、基色をわかりやすくしたい人が"〇〇 calico"として書いているだけかもしれない。

 

ちなみに、これらの色は全て野生でも見つかる。

 

縁の色が薄くなるCalicoもいる

Calicoの中には通常色のP. scaberのように縁の色が薄くなる個体も存在する。

 

Calicoは固定できるのか

これに関しては正直情報不足だが、おそらく可能ではある気がする。

Calico遺伝子が劣性遺伝子であることはほぼ確実なのでホモのオスが準備できるかにすべてがかかっていそう。

Calico遺伝子そのものは三毛猫と違い、オスも遺伝するためオスのホモさえ手に入れれば、「オスはグレー、メスは必ずCalicoになる」コロニーを作ることは可能だと考える。

しかし、ホモのオスとヘテロのオスを見た目で見分けることが不可能なのでF2のオスを一匹ずつ分けてCalicoと繁殖をさせ、そこから生まれた個体のオスとメスを全て確認した後、メスが全てCalicoになっているかどうかを確かめる というクソほど面倒な作業が必要になる。

 

とはいえ固定ができるのであればある一定の需要はありそうな見た目をしているのでゆっくり気ままに気が向いたらやってみようかな。

 

ワラジムシの繁殖と日照時間

ワラジムシは日照時間の長さによって脱皮頻度と代謝が上がり、繁殖が促進される。

Die Bedeutung der Tageslänge für das Einsetzen der Fortpflanzungsperiode bei Porcellio scaber Latr. (Isopoda)

 

1日のうち、16時間光を当てた集団と、7時間光を当てた集団では前者では脱皮の頻度があがり、代謝も上昇し繁殖も促される。

 

オカダンゴムシではこれに加えて一時的にあえて温度を下げる、「クーリング」をすることでも繁殖が促進される結果も出ている。

Role of Photoperiod and Low Temperature in the Control of Ovigerous Molt in the Terrestrial Isopod, Armadillidium Vulgare (Latreille, 1804)

 

 

温度ではなく日照時間のみで繁殖のコントロールができるのは意外だった。

他の種でもこれが応用できないか考えてみたが、熱帯種や洞窟種といった日照時間が季節によってあまり変わらない、あるいはまったく関係がない種においては微妙か。

 

ワラダンはケージの数が多くなりがちで光をあえて当てるということはあまりしない人が多い気がするので、なかなか増えないときは光を当てる時間を調整してみるともしかしたら一気に増え始めるかもしれない。

 

温帯種ならかなり有効なんじゃないか?

温度を下げたりとなると生体が死ぬ恐れもワンチャンあるけど光を当てる時間を調整するだけで死ぬほど軟な生き物でもないので、とりあえずやってみるのも悪くない。

 

 

どうでもいい話

ワラジムシ(P. scaber)について書かれた日本語のページがあまりにも少なすぎる。

モルフもオレンジが少し流通している程度でそれ以外のものは全く見かけない・・・。

 

過去にダルメシアンが流通していたことがあったという情報を頂いたが、今となってはそんなものはどこにも見当たらず・・・。

 

今後 P. scaberの新しいモルフが開拓できたらと思い、色々調べてるのでそれ関連のことをぽつぽつ書いていくかも。

いろんな色のワラジムシ

まずはこのワラジムシを見てほしい。

普通のワラジムシと比べると様子がおかしい。

いわゆる"ナミワラジ"であるPorcellio scaberとは違う種のように見える。

 

Porcellio scaberと言えば暗い灰色で平べったいイメージだが、このワラジムシはどうもそんなイメージとは異なるまだら模様をしている。

白体の数や腹尾節などの部分的な特徴はPorcellio scaberと非常に似ている。

 

もしかして、Porcellio scaberによく似た別の種なのか・・・!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・なんてことはなく、これもPorcellio scaberであり、いわゆる”ナミワラジ”。

Porcellio scaberにはある程度の色彩パターンがある。

ノーマルな全体的に灰色のタイプ。

ノーマルの色だが、身体のふちが少し薄くなっているタイプ。

これらはまとめてwild typeと呼ばれているっぽい?そのまんまじゃん

 

このふたつがほとんどを占めているが、少ない確率で複雑な模様をした個体が発生する。

そのうちのひとつがこのまだら模様のタイプ。

このようなタイプはCalicoと呼ばれている。

Calicoは恐らく三毛猫の英語名であるcalico catが語源だと思われる。

 

Calicoには赤くなる個体が発生することがあり、このタイプは"Red Calico"と呼ばれている。

また、Calicoにはふちの色が薄くなるパターンも存在し(写真はRed Calico)、ふちが薄くなるかならないかはPorcellio scaberの色彩タイプに置いて基礎に当たる部分になっているのかもしれない。

Calicoにも個体差があり色が薄かったり濃かったりするものがある。

 

 

 

さらに調べてみると、"Lava"だったり"Orange Ember"だったり"Lemonade"といったカラフルなワラジムシの画像がたくさん出てくるが、恐らくこれらは選択交配を続けたものや、突然変異の個体を累代させたものであり、通常発生するPorcellio scaberの色彩パターンとは少し異なるものだと思われる。

 

突然変異を除き、自然発生しうるPorcellio scaberの色彩パターンの写真はここで見ることができる。

British Myriapod and Isopod Group-Porcellio scaber Latreille, 1804

恐らくここに載っている写真のタイプが通常発生しうる(突然変異とまでは言えない)色彩パターン。

 

どのような形で色彩タイプが決定するかは不明だが、Red Calicoを累代飼育して様子を見てみようと思っているところ。

imch4.hateblo.jp

 

ナミワラジはどこでも大量に見れる種なのでいつものワラダン探しついでにいろんな色彩パターンのナミワラジを集めてみるのも面白いかもしれない。

 

赤いワラジムシ

1か月程前に三浦半島で採取した赤いワラジムシが抱卵していた。

半透明の膜に覆われた薄黄色のつぶつぶが卵。

これが抱卵した個体。

珍しい色のワラジムシに見えるが、普通のワラジムシPorcellio scaberの赤い個体というだけである。

まだら模様のワラジムシはCalicoと呼ばれているが、その中でも赤が強いものはRed Calicoと呼ばれているらしい。

この個体がRed Calicoに該当するかはわからないが、これよりもっと赤(オレンジ)の割合が多くなってくるとLavaと呼ばれるっぽい。

Red Calicoまでは野生でも見られるがLavaは恐らく選択交配されたものだと思われる。

 

この個体も選択交配を進めるべく赤めの個体のみで飼育しているが、まだ採取してから1か月も経ってないので貯精嚢に残されていた通常個体の精子で抱卵した可能性がある。*1

 

何はともあれこれからが楽しみ。

そのうちPorcellio scaberの色彩パターンをまとめた記事も書きたいね。

*1:ワラジムシは貯精嚢と呼ばれる器官に精子をため込み、一度の交尾で複数回受精卵をつくることができる

ゴミでも役に立っていることがある

環境問題のひとつとして、昔から取り上げられているのがプラスチックゴミ問題だが、このゴミがそこに住む生き物の役に立っている場合がある。

 

これは冬に見つけたトウキョウコシビロダンゴムシのコロニーだが、こいつらは木の根元に半分地面に埋まったプラスチックゴミの下から見つかった。

同所には在来のハヤシワラジムシ科の一種も見られた。

 

プラスチックには水が浸透しないため、プラスチック下の地面は冬でもかなりの高湿度が保たれているようだ。

冬の乾燥が大敵のダンゴムシたちにとってはとてもありがたい越冬場所になっているのかもしれない。事実、その日探した中で一番個体密度が高かった場所がこのプラスチックゴミの下だった。

 

プラスチックゴミは何が何でも悪だと言われることが多いが、そんなゴミでもこういう一面があるというのは知っていても損はしないんじゃないかと思う。

ゴミに限らず多方面から物事を見れるようになると役に立つことが多い。

 

とは言え、どう考えても環境への悪影響の方が遥かに大きいので、無くなるに越したことはない。

海岸でよく見かけるナメクジの正体

ワラダンを探しているとナメクジやキセルガイの仲間もよくみかける。

中でもいつも海岸でみかけるこのナメクジの種がいつもわからず放置していたが、調べたところMalacolimax tenellusという種によく似ている気がする。

 

現地ではLemon Slugと呼ばれているらしい。

名前の通りレモンの様な色をしているらしいが、写真を探してみるとかなり個体によって色や質感にバラつきがある。
個体間の差が激しいのか、誤同定されているのか、どっちなのかは分からないが、触角のみが黒いことや、色と胴体部分の質感はかなり似ているものもあるため本種ではないかなあと思っているところ。

 

Twitterで検索してもかなり黄色が強いものや自分が見つけた個体と同じような色をしたものまで差が激しいのでそういう種なのかもしれない。

調べても日本語の記事や日本で見られたという報告が見つからないのがなおさら不安なところでもある。。。

そもそもナメクジ自体、日本ではあまり研究されていないし一般の興味もさほどないのでただただ書いてる人がいないだけですでに知ってる人はどこかにいるかもしれない。

 

Twitterで海外の人に聞いてみるのも一つの手かも。

ダンゴムシは危険を感じた時以外にも丸くなる

ダンゴムシと言えば、危険を感じた時に丸くなる習性(球体反射)があるということが一般的に知られているが、実は危険を感じた時以外にも丸くなることがある。

それは、乾燥から身を守るとき

 

ダンゴムシは呼吸する際、腹肢が変化した白体(偽気管)と呼ばれる器官を使って呼吸していると言われている。しかし、乾燥状態にあるとこの白体からうまく呼吸ができずに死滅してしまう

つまり、ダンゴムシはある程度湿度がある場所でないと生きていくことができない。

 

冬になると空気が乾燥する影響で、人間の場合肌がカサついたりするが、ダンゴムシの場合は死活問題である。しかし、そんな時に便利なのがこの丸くなれる構造だったりする。

 

ダンゴムシは越冬する際、大きな石の下やプランターの下、コンクリートの隙間等、乾燥しにくい場所に多くの個体が集まることによって乾燥から身を守っている。

 

集団を形成するメリットとして、集まることによって水分の蒸発を防ぎ、乾燥から身を守ることができるところにあるが、これは他の陸棲等脚類にも共通する習性で、集団の形成に関してはワラジムシのほうが多くの個体で集団を形成する傾向にあり、ダンゴムシではそこまで大きな集団は作らない傾向にある。

 

その理由は、ダンゴムシは丸くなることによって体の内側から水分の蒸発を防ぐことができるためであると考えられる。

 

集団を形成する場合、餌不足や捕食者による大量捕獲、病原菌のまん延などといったデメリットも存在するため必要以上の密度で集まってもかえって逆効果だったりする場合もある。

 

そのため、ある程度自衛ができるダンゴムシはワラジムシやフナムシと比べてまばらに生活することができる。

 

これは経験からも明らかであり、ダンゴムシよりもワラジムシのほうが巨大な集団を形成している場合が多く、密度はフナムシ>ワラジムシ>ダンゴムシの順で高い。

 

ダンゴムシの中でもコシビロダンゴムシ>オカダンゴムシの順で密度が高いように思える。

 



これは先日見つけた休眠中のトウキョウコシビロダンゴムシのコロニーだが、かなりの密度で休眠していた。

同所で見つけたオカダンゴムシは単独で休眠している個体が多く、コロニーと呼べるような集団は見当たらなかった。

 

 

オカダンゴムシでも植え込み等の冬場に落葉があまり溜まらず、乾燥しやすい環境にある場合はかなりの数で集団を形成していることが多いので湿度が集団形成にかなり影響を与えているようだ。